胎児期の飢餓が糖の代謝異常に
少し前までは、妊娠中に体重をあまり増やさないことが良いとされ、妊婦にも体重制限がやかましく指導されていました。
「小さく産んで大きく育てる」ことがいいのだとされてきたのです。ところが最近では、いくつかの成人病は、胎児期に原因があるとする説が有力になってきました。
インシュリン非依存性2型糖尿病、高血圧、シンドロームX、脳血管疾患、心血管疾患は、低出生体重と関係があるという研究が、パーカーらによってなされたのです。
その後、他の研究者によって、国や民族によらず、成人した後の糖代謝の異常が低出生体重と関係があることを示しました。
第二次大戦時の飢餓時に生まれたオランダの人々は、その前と後に生まれた人々に比べ、食事をした後2時間たっても糖が血液中で高いままだったのです。なかでも妊娠の後半期(第3期)に飢餓にさらされていた人々が一番高かったのです。
人間は飢餓には強いが、飽食には弱いということがよく言われますが、胎児期には、飢餓を生き抜いていくための刷り込みが行われているのでしょうか?
低体重児の影響が大きい
早産でもないのに、体重が少なく産まれた児(満期出産した胎内発育遅延児=SGA児と略)については、長期の観察がなされていて、かなり多くのことがわかってきています。
生まれたとき、早産でなく体重も標準である児(満期出産胎児齢相当児=AGA児)に比べ、SGA児はインスリンの感受性が低いのです。このことは胎児期にも起こっていて、胎児の成長、発達に必要な糖が、脳などの必要な臓器に配分されにくいことを示しています。
インスリンの感受性が低いことが、成人後のインシュリン非依存性2型糖尿病、高血圧、シンドロームX、脳血管疾患、心血管疾患やガンに結びついています。
赤ちゃんはふつう丸々と太っています。おとなの肥満は病気のもとですが、赤ちゃんにとっては脂肪がとても大切なのです。やせていることは脂肪の不足を意味します。
脂肪から出される重要な物質のアディポネクチンやレプチンは、将来の健康を決める要因といっても言い過ぎではありません。
アディポネクチンはインスリンの感受性を支配し、動脈硬化を防ぎ、炎症を防ぎ、レプチン(正確にはレプチン感受性)は肥満、エネルギー代謝や食欲に関係します。
SGA児はまた、AGA児に比べ、肥満、月経がAGA児より低年齢で始まり、排卵が障害される多嚢胞性卵巣、男性ホルモンの過多、副腎から出されるホルモンのDHEAが過多であると報告されています。
男児はどうなっているか、また女児についても、もっと大規模な研究が必要です。
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